2011年2月18日金曜日

緑陰寸評:引っ越し騒動 /熊本

 第五高等学校の英語教師夏目漱石が熊本に赴任したのは、1896(明治29)年の春だった。熊本時代の4年3カ月に、漱石は6回転居した。結婚、妻の自殺未遂、長女誕生と騒がしかった暮らしで気分転換を図ったのか、あるいは単なる引っ越し魔だったのか。「名月や十三円の家に住む」なんて句も作った。家を越すのは当時も大変だったに違いない。
 新聞記者に引っ越しは付き物だ。入社27年、14回引っ越した。怠け者で面倒臭がり屋。引っ越しは大嫌いなのに漱石に負けないペースである。
 人事異動があれば、個人的な事情による転居もあった。作業は家人や業者任せになるが、手続きは煩雑だ。予期せぬ出費もかさんで、引っ越し貧乏になる。雨漏りする家、電気がつかない寮にも住んだ。望まない転居も経験したが、悪いことばかりではない。素晴らしい出会いもあった。
 長々と引っ越しの話を書いたのは、鳩山由紀夫首相の公邸入居費訂正の記事を読んだからだ。
 昨年10月の入居時に、内装などで474万円かかったと公表していたが、点検?清掃費281万円は含まれていなかったと訂正した。国のトップである。大事なお客さんもあるし、警備上の理由もあるだろう。ある程度の出費は仕方ない。問題は、金額より安易に訂正して恥じない態度だ。鳩山内閣の言葉の軽さは毎度のことであるが、これでは信用は得られない。たかが入居費と侮ってはいけない。
 安倍、福田、麻生と首相が交代するたびに、改修費や清掃費が100万円も200万円もかかっていたことも分かった。わずか1年でそんなに修理が必要なのかといぶかる。街の不動産屋なら、乱暴で汚い住人はすぐに出てくれと言う。
 年度末。引っ越しシーズンだ。悲喜交々の転居であろう。公邸の主も近々また、とならなければよいがと心配している。<熊本支局長?中島伸也>

3月15日朝刊

【関連ニュース】
堺雅人:「太宰と向き合えた」 アニメ「青い文学シリーズ 人間失格」DVD、BD発売
『本デアル 』=夏目 房之介?著
まいまいクラブ:松山でケータイ写真句会
暮らし?教育 『失敗の教科書。』=宮下裕介?著
佐藤泰正さん:『これが漱石だ。』刊行 ズシリと重い92歳の文学講義

引用元:住宅 | 柏市

0 件のコメント:

コメントを投稿